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最高裁判所第三小法廷 昭和22年(れ)267号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人河上市平上告趣意第二點は「原判決は法令の適用を誤りたる違法あるものと思われる原判決は理由の第三に於て「被告人横堀は同年九月下旬頃北見市役所裏で被告人井坂に對し前記の如く被告人井坂がその職務を利用して配給券九枚を僞造して渡して呉れた不正行爲に對する謝禮の趣旨で金三千圓を交付して公務員である同被告人の職務に關し賄賂を供與し」たることを認め之に對し刑法第百九十八條を適用して有罪の認定をしてゐるなるほど一應は刑法第百九十八條の構成要件を充足する事実ではあるが被告人が原審に於ける相被告人井坂に交付した金三千圓の金員は詐欺の結果犯罪行爲に因り得たるものであるから所謂「賍物」である而して原審の相被告人井坂はその賍物性を認識して受領したとすれば賍物の收受罪を構成するかも知れないが提供者である被告人は賍物の交付に因りて處罰を受けるものではない一般に犯罪に因って得た賍物の處分行爲は不可罰的事後行爲であるから偶々收受者が公務員の地位にあったからとて別に賄賂提供罪を構成するものではなく此の場合には違法性がないと謂うべきである從って原判決は罪とならざる事項に有罪の認定をし法令の適用に誤りあるものである」というのである。

しかし刑法第百九十七條の罪が成立する爲めには公務員が收受した金品が賍物であっても差支へない(賍物と知りながら收受した場合は收賄罪と賍物收受罪との二罪が成立するわけである)。(大審院明治四十四年(れ)第三四九號同年三月三十日言渡判決參照)されば本件に於て被告人が原審相被告人井坂正雄に其職務上の不正行爲に對する謝禮として交付した金員が假令所論のように賍物であったとしても之が爲めに贈賄罪の成立に少しも影響を及ぼすことはない。原判決には所論の樣な違法は無く論旨は理由がない。(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

仍て刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の如く判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 庄野理一 裁判官 島 保)

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